ADPは、住血吸虫症などのNTDsの予防薬を蔓延のおそれがある地域の子どもたちに届けられるよう、支援を行っています。写真:Natasha Scripture/UNDP
「ビルハルジア」または「カタツムリ熱」とも呼ばれる住血吸虫症は、淡水産巻貝を中間宿主とする寄生虫症です。
顧みられない熱帯病(NTDs)の中でも、最も広く蔓延している疾患の一つで、社会経済面でも健康面でも大きな負担となっています。推計によると、2019年の時点で、住血吸虫症の治療を必要とする人々は全世界で約2億4,000万人に上ります[1]。これらの感染症の大部分はサハラ以南アフリカで発生しており、1億7,200万人を超える5歳未満児が感染のリスクにさらされています[2]。
不十分な衛生状態や、感染源となる水域で泳いだり、釣りをしたりするなどの活動をすることで、子どもは特に感染しやすい状況にあります。住血吸虫症は、安全な飲み水や衛生設備を利用できない貧しいコミュニティでよく見られる病気でもあります。
タンザニアでは、人口の50%以上が主としてビクトリア湖、タンガニーカ湖、ニヤサ湖の各地域で住血吸虫症に罹患するリスクを抱えています。タンザニアでは、5歳未満児600万人もの子どもたちが住血吸虫症の感染リスクにさらされていると推定されています。2019年の時点で、5歳未満児5万3,316人の感染が確認されていますが、これによる障害調整生命年 (DALYs)の損失は1,086年に上ります[3]。
住血吸虫症によく見られる症状としては、腹痛、下痢、血便が挙げられます。子どもに対する影響は深刻で、貧血症や成長阻害、学習障害が生じるおそれもあります。幸いなことに、このような症状は通常、治療によって完治すことができます。
世界保健機関(WHO)の推奨する有効な住血吸虫症対策としてはまず、リスクにさらされた人々に定期的にプラジカンテルという薬剤の集団投薬を行うことが挙げられます。NTDsの予防のための集団投薬は、世界の公衆衛生において最も費用対効果の高い施策の一つです。
タンザニア政府は長年にわたり、学校での治療薬配布をはじめ、このように大規模な集団治療キャンペーンを実施してきました。しかし、タンザニアで住血吸虫症のリスクにさらされた5歳未満児は、この年齢層に適した治療薬が存在しなかったことから、集団治療キャンペーンから取り残されてきました。
公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、乳幼児をはじめとする幼い子どもに適した潜在的治療法の開発を目的として、小児用プラジカンテル・コンソーシアムに資金援助を行っています。「アラプラジカンテル」と呼ばれるこの治療薬は現在、必要とされる規制当局の承認に向けて準備が行われている段階であり、2024年には使用できるようになるものと見込まれています。
この治療薬が利用可能になり、その使用が推奨されるのに先立ち、新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(Access and Delivery Partnership:ADP)は関連する国内能力を強化することにより、タンザニアが迅速に同治療薬を導入し提供できるよう準備を支援しています。この支援は、新規医療技術が開発されても、その実効的な導入と患者への提供を確保するためには、政策と規制の組み合わせに加え、国レベルでの効果的な調達やサプライチェーン管理が必要であるという事実認識に基づき行われています。
ADPは治療薬の迅速な導入と提供を実現するために、保健省や国立医学研究所(NIMR)、WHOを含め、多様な部門のステークホルダーと密接に連携しつつ、タンザニアで実施中の「小児用プラジカンテル製剤提供・展開準備に向けた医療システム能力強化(STEPPS)」プロジェクトを支援しています。
NIMRのポール・カジヨバ博士は、「タンザニアでは、5歳未満児の住血吸虫症感染が公衆衛生上、懸念すべき問題となっています。アラプラジカンテルが承認され、入手可能となり次第、効果的かつ迅速にこれを導入できるよう、準備を進めておくことが欠かせません。私たち国立医学研究所は、開発パートナーや政策立案・決定者と連携し、マルチセクター型のアプローチでその実現に努めています」と語っています。
特にデータが不足している地域で、5 歳未満の子供の住血吸虫症感染の正確な規模を把握するために、NIMR は「アフリカのための感染症対策(Tackling Infections to Benefit Africa)」 の支援を受けて疫学調査を実施しています。 この調査で得られた情報は、アラプラジカンテルの初期調達量や関連費用の推計に用いられるます。
STEPPSプロジェクトの特筆すべき成果の一つとして、既存の全国規模の駆虫プログラムを活用した、アラプラジカンテルの適切な提供モデルを特定したことが挙げられます。
加えて、20の県で300人以上の医療従事者が、プラジカンテル関連の薬物有害反応に関する安全監視・対応システムの使い方に関する訓練を受けています。また、大規模な治療キャンペーンを実施する3,000人のコミュニティ・ヘルスワーカーの能力を強化するツールやガイドラインも開発され、これによってNTDs治療薬のサプライチェーンの効率と信頼性が改善しています。
またSTEPPSプロジェクトは、幼児の住血吸虫症感染や、小児用製剤の将来的な展開の可能性とその重要性に対するコミュニティの認識向上にも努めています。
タンザニアが住血吸虫症の制圧に成功するよう支援するADPの取り組みは、今も続いています。この目標が達成されれば、得られた教訓は他の地域の国々にとっても有益になることが期待されています。
Pediatric Praziquantel Consortium
Pediatric Praziquantel Consortium, ‘The Pediatric Praziquantel Consortium Announces Positive Phase III Results for Arpraziquantel To Treat Schistosomiasis’, 16 November 2021
JAGntd and GHIT Fund, ‘Webinar Series 3: Country’s Perspective: Introduction of Pediatric Praziquantel for Schistosomiasis in Tanzania’, 18 November 2021
WHO, ‘Ending the neglect to attain the Sustainable Development Goals: A road map for neglected tropical diseases 2021–2030’, 28 January 2021
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